青年が目を覚ました時、視界を覆ったのは真っ白な天井だった。
もう数十年はこうして眠り続けていた気がする、そう思えるほど頭の中はカラッポで、
眠る直前の記憶も定かでは無い。
眼球に意識がいき、ようやく視界が泳ぐようになった時、取り乱した母親の姿と声がカラッポの頭の中に入り込んできた。
あんた急に記憶を失うなんて言い出して、アニメのキャラをもっと好きになるためにって
あたしもうこのまま目を覚まさないんじゃないかって
要領を得ない母親の話をぼんやりと聞きながら、ふと手元に目をやると
錆びた端子が触手の様に伸びた無骨な機械を握っていることに気が付いた。
120ボルトと書かれているそれを見ている内になんとなく現状を把握できた気がする。
どうやらアニメのキャラのために自分で自分の頭に電流を流し、記憶を飛ばしてリビングで倒れたらしい。
無茶なことをするものだと思ったが、無事目を覚まし何時からかの記憶も失っていることから、
たぶん成功したのだろう。
しかし肝心のアニメのキャラも思い出せず、この行為がもっと好きになることに繋がる意味も全く検討つかなかった。
一体自分は何がしたかったのだろう。
心が落ち着いた後、重い足取りで自分の部屋に戻る。
カーテンが閉め切られてて、朝でも真っ暗な自分の部屋は記憶を失う前から馴染みの景色だ。
ふと、四角くぼんやりと光が浮かんでいるのが目に入った。
点いたままのPCモニターに、お絵かきい掲示板☆彡というサイトが開かれていた。
そこにはボリュームのあるくせ毛、チアガールのボンボンみたいな物を二つ頭に付けている金髪の少女の絵がたくさんあった。
針が頭を刺したような刺激の後に、動悸と共に身体が熱を帯びてくるのが分かった。
恐らく自分が好きだったアニメキャラはこの少女だったのだ。直感的にそう思った。
その掲示板には一人しか絵を描いておらず、うにちりという名前は自分が使っていたペンネームだ。
自分が今まで描いた少女をもっと好きになるために、他者の視点で自分と少女の轍を見つめるために
大層な機械でわざわざこの掲示板での記憶を消したということなのだろう。
あまりの自分の愚かしさに涙が出そうだった。
そのおかげで少女のことを完全に忘れてしまったのだから。
忘れてしまった少女のことを知りたい。
別のタブに描いたばかりの絵があることに気が付いた。
忘れてしまったのなら教えてもらえばいい。
忘れてしまったのならもう一度好きになればいい。
今の気持ちを、
一度記憶を失った自分が率直に思ったことを書き込んでその絵を掲示板に飾った。
誰こいつ??
まずださいメガネ外してね