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「…ラック?」
不意に会話が途切れたのに気づき、劉はその先輩に声をかけた。
もふり、劉のお気に入りであったパンダのぬいぐるみはその身体を抱えた男の体重によって柔らかくへこんでいる。その一番やわらかい腹の部分に、金色の頭が静かに埋もれている。
聞こえてくるのは、すよすよ、と穏やかな吐息。
「寝てるアルか」
先ほどからツイッターでも眠い眠いと連呼していた彼だ。茶を飲めば目が覚めるなどと言っていたが、その茶を用意している間に寝落ちしているとは。
「だから言わんこっちゃない、アル」
ぴこんぴこん、絶え間ない通知は彼のアカウントへのリプであろうか。さすが人気者アルね。苦笑しながら握りしめられたままになっている携帯を、そっとその手から外してやった。
身動ぎ。起こしただろうか、少し身を固くした劉を後目に、彼は空いた掌をパンダのぬいぐるみへと回してさらにぎゅうと抱きしめた。
むにゃむにゃ、何やら意味を成さない言葉が空気に溶ける。
普段の彼とはかけ離れた幼い仕草。常にキリ、と釣り上げられた険のある眼は今は閉じられており。
「……」
ぴろりん。
思わず写真をとってしまった劉を責められる者は居ないはずだ。多分。きっと。
写真をそそくさと鍵つきフォルダのなかにしまいこんだ後、自分のツイッターアカウント、「チャイナ」で発言した。
『【速報】ラックが寝てしまったアル』
ラックからの返事が途切れていたことで不審に思っていたのだろう。再度、一気にTLが加速する。wwwwやら写真うpやら、の発言が流れてくるが、面倒なので適当に流すことにする。
『写真なんて撮ったら後で大変なことになるから勘弁するアル』 (撮ったけど)
そして、これで今日は終わりにする旨を書き込めば、おやすみ、ラックをよろしく、などと返事をもらった。
(まだ寝ないアルけどね)
あくまでここは寮の、劉の部屋である。寝るなら自分の部屋に帰ってもらわねば、消灯時に先生からドヤされることになるかもしれない。
しかしながら、気持ちよさそうに寝ている福井の姿に、起こして部屋に返すという気がなくなってしまう。
「ラック…福井が部屋にきたの、久々だったアルね」
ハンドルネームではなく、彼の名を呼ぶ。
実況動画、自分の相棒であるラックから、先輩である福井健介へ。それだけで、作り物めいた電子上の関係から、急に現実世界に帰ってきたような気がするから不思議だ。
「俺の部屋は、寝ちゃうくらい居心地良いアルか?」
そっと、その髪に手を伸ばす。カサリ、少し傷んだ感触がする、金色の毛先。起こさないように気をつけながら顔も近づけてみれば、ふうわり香ったのは石鹸の香りだった。
いつもなら自分しかいない空虚な部屋が、彼がいるというだけで色が変わったように見えたのだ。
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存在を同じくして、ちがうもの。